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神戸地方裁判所 昭和58年(わ)847号 判決 1984年11月29日

本店所在地

神戸市東灘区住吉町牛神一八二六番地

東幸海運株式会社

右代表者代表取締役

笹木秀雄

本籍

広島県因島市土生町一八九九番地の二九

住居

神戸市東灘区住吉東町一丁目六番地の一〇

会社役員

笹木幸雄

大正一三年一〇月一七日生

右東幸海運株式会社及び笹木幸雄に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は検察官岡本誠二出席のうえ審理して次のとおり判決する。

主文

被告人東幸海運株式会社を罰金一、五〇〇万円に、同笹木幸雄を懲役一〇月に処する。

被告人笹木幸雄に対し、この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東幸海運株式会社は、神戸市東灘区住吉町牛神一八二六番地に本店を置き、船舶運送業及び貸渡業等を営むもの、被告人笹木幸雄は、被告会社の取締役会長として業務全般を統轄しているものであるが、被告人笹木幸雄は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、昭和五四年九月一日から同五五年八月三一月までの事業年度における所得金額が一億六、六七九万八、〇一六円(別紙脱税額計算書及び修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が六、一二三万二、六〇〇円であるにもかかわらず、架空の船用品費を計上し、船舶の減価償却を繰り上げるなどの行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、同五五年一〇月三〇日、兵庫県芦屋市公光町六番二号所在の所轄芦屋税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二、八九一万一、五五〇円で、これに対する法人税額が六〇七万七、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右事業年度の法人税五、五一五万四、八〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告会社代表者及び被告人笹木幸雄(以下単に「被告人」という)の当公判廷における各供述調書

一  被告会社代表者(三通)及び被告人(六通)の検察官に対する各供述

一  被告会社代表者(五通)及び被告人(四通)の収税官吏に対する各質問てん末書

一  足立國男(四通)、白鹿弘、内山啓(五通)、村上政喜(二通)、静間しずゑ、一井武及び中谷健良の検察官に対する各供述調書

一  北村正治、白鹿弘、内山啓(八通)、村上政喜(三通)、山本昌已、静間しずゑ、前田和久及び橋本英之助の収税官吏に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書

一  芦屋税務署長作成の証明書(自昭和五四年九月一日至同五五年八月三一日事業年度分の確定申告書写添付)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(期間自昭和五四年九月一日至同五五年八月三一日)

一  登記官作成の商業登記簿謄本

(法令の適用)

被告会社及び被告人笹木幸雄の判示各所為は、いずれも昭和五六年法律五四号附則五条により同法による改正前の法人税法一五九条一項(被告会社については、さらに同法一六四条一項)に各該当するので、被告人笹木幸雄につき所定刑中懲役刑を選択し、被告会社については免れた法人税の額が五〇〇万円を超えるので、同法一五九条二項により罰金額は免れた法人税額に相当する金額以下とし、その所定罰金額の範囲内で、被告会社を罰金一、五〇〇万円に、被告人笹木幸雄を懲役一〇月に各処し、情状により刑法二五条一項を適用して被告人笹木幸雄に対してこの裁判の確定した日から二年間右の刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、被告会社の取締役会長をしている被告人笹木が、被告会社の業務に関し、昭和五五年八月期の事業年度において、被告会社が同五四年一〇月に所有船舶を売却して得た売船利益約七、八〇〇万円を新造船の竣工引渡しを受けた時期を繰り上げて新造船に関しての一般償却及び特別償却による利益調整を図るなどの不正な方法で所得を秘匿し、五、五一五万円余りの法人税をほ脱したという事案であり、ほ脱額が高額であること、しかも、ほ脱の方法は極めて意図的でかつ巧妙であること、自己申告納脱制度においては、課税所得の算定にあたり納税者の裁量的判断の幅が大きいだけに、この種事案が頻発すると、国民の間には、それでなくても税の不公平感があるのを一層に駆り立てることになり、納税意欲を損うことにもなりかねないこと等を考慮すると、被告会社及び被告人笹木の刑事責任は決して軽いものではない。

しかしながら、犯行の動機は、不況の海運業界の中にあって、新造船の建造価額を少しでも安価にし、利益調整をする必要にあつたものであり、犯行の計画性、巧妙さから鑑みるとき悪質といわなければならないが、その動機には酌むべき点が全く無いとは言い切れない事情にあること、本件発覚後、修正申告を行ない、本税、重加算税、地方税などを納付するなどしていること、被告会社は、現社長のもとで、経理の明朗化に意を尽くしていること、被告人笹木は、勤勉であり、かつ海運業界に尽くした功績も大きいこと、本件につき反省悔悟していることなどの有利な諸事情も認められるので、これらを総合考慮し、被告会社及び被告人笹木につき各主文のとおり量刑したうえ、被告人笹木に対してはその刑の執行を猶予することとした。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 重村和男)

修正損益計算書

租税犯の類型

過少申告脱税犯

自 昭和54年9月1日

至 昭和55年8月31日

<省略>

脱税額計算書

期間

自 昭和54年9月1日

至 昭和55年8月31日

<省略>

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